2019年、厳しい練習に夢中で打ち込んだ夏。並み居る強豪校を破り地区大会で優勝したのは、小さな島の県立高校野球部だった――。
大島町にある大崎高等学校野球部は、夏の地区大会に続き秋の九州高校野球長崎県大会でも優勝を飾ります。まるで青春小説のような快進撃を続けるその裏で、生徒たちを支える熱い熱い先生がいました。
今回の「物語り」の主人公は長崎県立大崎高等学校校長 平山隆さんです。
「持ち物」や「仕事道具」にはその人の価値観や人間性が映し出されるもの。西海市のさまざまな分野の第一線で活躍する方々に、所持品や宝物などの「物」を通してその人となりを聞いていく企画の第四弾です。
【プロフィール】
長崎県立大崎高等学校校長 平山隆(ひらやま たかし)。
長崎市出身。英語教師として数々の高校で教鞭をとる。平成29年から大崎高等学校の校長として着任。趣味はベースギター。
Contents
熱いぞ!大崎高校野球部!!熱いぞ!平山校長!!
大崎高校の校長室に、どーんと飾ってある優勝旗。これは今夏に行われた第68回佐世保地区高等学校新人野球大会で優勝したときのものです。
これこそ、本日語っていただく平山校長先生の大切な「物」。
平山先生は野球部への想いを語り始めました。
「本当に強くなりましたね。清水監督の指導のもとで鍛えられています。監督はすごいですよ。指導のノウハウが豊富で、組織作りにも長けているし、部員のケアやコーチングもきめ細かくされています」
大崎高校野球部を指導する清水監督は全国的にも有名な敏腕監督なのです。
そして野球部について語る平山先生の楽しそうな顔は、全く一野球ファンのそれです。
「うちの野球部は、地元からのバックアップがすごくて地域から愛されています。練習試合でも、近所の方々が応援に来てくださるんですよ」
平山先生は、試合日程も部員の人数もしっかり把握している模様。校長でありながら野球部の副部長(教員が部長・副部長となります)としてベンチ入りし、試合を見ることもあるのだとか!
「ベンチで生徒たちといっしょにワーワーしていますよ」
なお、教頭先生がベンチ入りすることもあるそうです。
「野球部には思い入れがあります。平成3年度から9年度まで、教員として大崎高校に勤めていました。当時、野球部の顧問の先生が転勤されてその後任に抜擢されたんです。僕は野球の知識なんてまるでなかったけれど、勉強して顧問になりました。全くゼロからのスタートでした。」
野球部の生徒たちといっしょに試行錯誤しながら部活動に励んだといいます。
そして時は流れ、再び大崎高校に校長として着任した平山先生、強くなった野球部を熱烈に応援しています。
たくさんのユニフォームと応援グッズ!
「これを着て応援に行きます」
出てくる出てくる応援グッズ。もちろん野球部のみならず生徒の部活動全般を応援しているので、弓道部など他の部のグッズもあります。
「生徒たちに言いたいのは、『何か夢中になれるものを見つけてほしい』ということ。何かに打ち込めることは、人生を楽しく豊かにしてくれます」
平山先生の言葉の裏には、ご自身の経験から来る想いがあります。平山先生が打ち込んでいるものは、部活動応援だけではありません。
本気のミュージシャン志望から教員に
平山先生のベースギター2本とエフェクター。
「僕は、高校時代は吹奏楽部でスーザフォーンという楽器の担当でした。カジュアルな曲目のときに音域が同じベースギターをやることになったのがきっかけで、ベースにはまりました」
吹奏楽部のみならず、同級生とのバンド活動にも参加していたとのこと。
「バンドメンバーに『平山が弾くとやりやすか』と言ってもらえたんです。それがとても嬉しくて、ああ、自分は誰かを支える立場になるのが好きなんだな、と気づいたんです」
そしてのめりこんでいったベースギター。平山青年は何時間でも練習し、好きすぎて、大学さえも名門バンドがあるところに決めました。(あれ、この人は教師になるのではなかったっけ?)
「本気でサポートミュージシャンを目指していたんです。だから大学も音楽で決めました。そうして入った大学だったんですけど、教育学部で中学に教育実習に行ったんです。そうして行ってみたら、生徒とのふれあいがとても楽しかったんですよね」
実習先でベース演奏も披露し、生徒から拍手喝さいを受けたのです。
このときの楽しさがきっかけで、先生になることを決めたといいます。
「それまで音楽しかやってこなかったから成績も散々だったけど、ゼミの恩師に叱られながら、育ててもらったんです。そして教師になりました」
英語教師として就職した後も、ベースをずっと弾いてきた平山先生。
「ベースがいろいろな出会いを連れてきてくれたんです。僕は校長だけど、”ベースを弾く校長”でいたいです」
そんな平山先生、昨年はある愉快な計画を企てました。
ミュージシャン校長、文化祭に乱入(?)
それが、文化祭での「校長挨拶」です。ふつうは、前に出てきた校長先生がいろいろとタメになるお話をしてくれるものですが……。
「正直、校長先生の話ってみんな覚えてないんですよ。でも、何か、生徒の中に残したかったんです。だからベースを弾いたんです」
♪エビバディダンスナウ のアップテンポな曲に合わせてベースを弾きながら舞台に上がる平山先生。
暗い体育館のステージでスポットライトを浴び、背景にはノリノリなミュージックビデオ。
生徒たちも歓声を上げて盛り上がります。
平山先生は音楽に合わせてずっとベースを弾き続けます。やがて静かな曲に変わり、生徒へ向けたメッセージが音楽とともに流れます。
『夢中になれるものはあるか?』
『何かにかけているか?』
『さあ、始めよう』
――
これは、タブレット映像を見たアラフォーの筆者でさえグッときました。目の前でライブを見た、感受性が豊かな生徒諸君の心に響かないわけがない!
「この挨拶で僕は一言もしゃべりませんでした」
柔和な顔で笑う平山先生。おぬし、なかなかやりますな!
ベースギターに今でも夢中。一生夢中。
「ベースを通して、いろんなつながりができました。」と語る平山先生は、地域の「WHITE BOX」というおやじバンドに仲間入りし、西海ミュージックフェスティバルにも出演しています。
残念ながら、定年退職のため今年で大崎高校を離れるとのこと。これからやりたいことは? という質問に、
「まだわからないです。一教員としてあり続けたい思いはあります。求められるところに行きたい。ベースギターはもちろんずっと続けていきますよ」
バンド少年がそのまま大人になったような校長先生です。生徒を愛し、野球を愛し、大島を愛する平山先生。
型にはまらない平山先生の「物」にまつわる話は、「夢中になれること」の素晴らしさを伝える、まるで特別授業のようなインタビューとなりました。