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【ウエストのおんな~赤とんぼと秋の黄昏刻~第10話】<レースクイーンとひらくち>

『馬肥ゆる、住子も肥ゆる秋の空』

サラリと川柳を詠んでみたくなる今日この頃。

私はアラフィフパート主婦の海近住子(うみちかすみこ)、西彼在住である。

 

私の住む西彼町はサラリーマンでも、自分の家で食べる分くらいの野菜やお米を自分の家の畑や田んぼで作っている。

わりとどこのご家庭でも ちょっとした畑や田んぼをお持ちなのだ。

我が家も同じくちょっとした田んぼをお持ちである。

 

野菜はもうほとんど作らなくなったが、やはりお米だけはこだわりがあるらしくだいぶ縮小したが今年もお米を作った。

 

今回は休みのたびに雨が降り、脱穀作業が10月の末にやっと終わった。

 

農業的な経験がなに一つ無い私は、田植えの時と稲刈り、脱穀の時・・・

 

急に存在が薄くなる。

もう、半透明くらいになる。

 

旦那が『お前はアテにならん!』というニュアンスの風を「ひゅるひゅる」と吹かせるもんだから、私の繊細なアンテナがいち早くその「ひゅるひゅる」をキャッチして自ら『存在を薄~く』する自己防衛を発動するのだ。

 

確かにアテにはなりません~

何もできません~

図星です~

 

「しょうがないじゃん 長崎出身だも~ん」

別に長崎出身を偉そうに語っている訳ではなく、西彼のように土地が広くないので長崎市内で田んぼを持っている人はそうそういないだろうというお話。

 

だから私は、畑で土と語り合った経験がないし、戯れたこともない。

 

しかし・・・経験がないからと言って親戚、ご近所のみなさんがお手伝いに来てくれている中、我が家の嫁が『てれんてれん』はできないだろう。

 

アテにならないなら、アテにならない者らしく究極に

 

『デキる嫁を演出』してみようじゃないか!。

稲刈りに参戦するわよ!! おー!

ジャージ上下に長靴、麦わら帽子に軍手。

自分なりのフル装備で決めた!

もう、これは誰がどこから見ても『デキる嫁』にしか見えない!

というか『デキる嫁』だ!

 

そんなフル装備の私に向かって旦那の一言。

 

『土のベタベタしとっけん ワイは何も出来んけん来んな!』

 

はいは~~い 了解っす~♬

手はず通りの展開。

私は旦那から直々に『田んぼに入るな』との命(めい)を受けたのである。

 

ああ残念だけど

「入るなって言われたけ~ん♡」

 

みなさんが作業されている中、田んぼの脇で『ジャージ姿のフル装備嫁』は日焼け防止の日傘をしっかりとさし、

 

まるでレースクイーンのごとくポージングを決めて、みなさんの働きぶりにエールを送ったのである。

 

しょうがない、だって旦那の命(めい)なのだから。

そういえば、話は変わるが西彼人には非常に敏感なワードがあるのをご存じだろうか?

日常生活の中でも出くわすこともあるが、田んぼの作業時などによく出るという

 

ひらくち!

 

俗にいう「マムシ」のことであるが、西彼人はこの『ひらくち』にただならぬ反応を示す。

ちょっとでも草むらに踏み込もうとすると

「ひらくちの出るけん そこに入るなぞ!」とすぐにストップがかかる。

 

確かに猛毒を持つ危険なヘビなので異様なほど『ひらくち』に敏感なのだ。

それだけよく出没するものということなのだろうか?

 

私的にはレアなヘビなので、いまだかつてその『ひらくち』にお目にかかった事がない。

そう西彼に来て23年・・・。

 

 

そんなある日

「あんた『ひらくち』ば見たことなかとって? 家ん前に出たけん見て来んね!」と言われどんなものかと見に行った。

 

どれどれ? どこ?

そこにはメッタメタに叩きのめされ原型を留めていない、きっとこれが『ひらくち』であろうものがあった。

 

いやいやこれもう形残ってないですやん。

 

きっと「これでもか!」くらいの勢いで叩きのめしたのだろう。

おかげで結局『ひらくち』がどんなものかわからずじまい。

 

いくら妄想族の私でもなかなか『ひらくち』の想像ができない。

 

来年レースクイーンではなく、田植え要員・稲刈り要員に駆り出された時の為に『ひらくち』のイメージをもんもんと膨らませる私なのでだった。

できれば 原型を留めた『ひらくち』を一度見せていただきたいものだ。

 

さて、無事に今年も新米がとれました。

ウエストでお疲れさんビールを買ってきました!

今年は『レースクイーン』すらしなくてごめんなさ~い。

次回は第十一話「冷え性のお話」

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