前編の絵本「きらきらさがし」についてのインタビューをお楽しみいただけたでしょうか。
後編は、新井悦子さんに絵本が出来るまでの過程、地方在住での作家活動、絵本作家になるには?などあまり知ることのできない貴重なお話を聞かせていただきました。
それでは、後編インタビューをお楽しみください。
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プロフィール 新井悦子:佐世保市出身・在住の童話作家。筑波大学日本語日本文化学類卒。子ども向け教材の編集を経て、出産を機に佐世保に帰郷、童話を書き始める。日本児童文芸家協会理事、絵本学会会員、長崎短期大学非常勤講師。
おもな作品に『だいすきのしるし』(岡田千晶 絵 岩崎書店)『いたいのいたいのとんでゆけ』(野村たかあき 絵 鈴木出版)『きょうはとくべつなひ』(いりやまさとし 絵 教育画劇)など。紙芝居、ワークブック企画、中国語の翻訳絵本など多数。
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Contents
絵本ができるまで~作家の世界×画家の世界=絵本~
ー童話作家になったきっかけを教えてください。
元々は、児童書の編集者希望で出版社に勤めていましたが、予想以上に大変な仕事でしたので、数年で離職しました。出産と同時にふるさと長崎に帰る事になり、編集ではなく作家としてなら、地方でもできるのではないかと一念発起し、出産と同時の30歳の時から童話を書き始めました。
ーこれまで、たくさんのお話を書かれていますが、 お話の題材(アイデア)はどのようにして生まれますか。
日頃からおもしろいと思うニュースや出来事にアンテナを張ったり、人を観察したりしています。よくメモも取ります。また、出版社からの依頼の事も多く、その時は、与えられた条件と自分の経験などを掛け合わせてアイデアを練ります。(例:年長児向け 4月 年下の子どもに優しくするなどの条件が出版社から提示されます。)
これまでの単行本について言えば、子育て中の子どもとの会話からヒントを得て、アイデアを思いつくことが多かったです。
ー ひとつのお話が完成するまでどのくらいかかりますか。
普段から漠然と考えている事が多いのですが、執筆の時間だけで言えば、早いものは1、2時間で書き上げたものもあります。その後、編集者とのやりとりを経るので 1、2時間で書いても、本の形になるまで3年半かかったものもあります。
月刊誌など短いお話では、依頼から第1稿まで2週間から1ヶ月で書いて、画家が絵を描き、本として仕上がるまでに半年ほどかかる事が多いです。
ー新井さんの作品は優しいタッチの絵が多いですが 、画家はどのようにして決まりますか。
先にお話が確定します。その後、画家は誰がよいか編集者とお互いに 3、4人ほど案を出し合い、お話のイメージに合う画家さんを話し合って決める事が多いです。その候補にあがった画家の優先順位を決め、編集の方が依頼をして決定します。人気の画家さんは、忙しいので断られる事も少なくありません。
絵を依頼する時には、原稿(テキスト)は、ほぼ決まっています。絵本の場合は、絵と文字が同じ画面にあるので、文字数が確定しないと絵を描くスペースに影響を与えるからです。
ーイメージしている絵を画家に伝えて、描いてもらうのでしょうか。
私の場合は「ここはこのように描いてください。」という指示は、ほとんど出さないです。作家の思い描いた設計図通りに画家が絵を描くのではなく、”作家の世界×画家の世界=絵本”だと思っているからです。
ほとんどの場合、画家の方は、より深く、より広く、より美しく、言葉の持つあいまいなイメージを、私が思い描いていたイメージより、絵として見えるものとして描いてくれます。
ー 絵本が完成するまでの過程を簡単でいいので教えてください。
私の場合、「出版社から依頼を受ける」と「出版社に持ち込みをする」の2パターンがスタートです。
校正:印刷物の字句・内容・体裁・色彩の誤りや不具合をあらかじめ修正すること
初校:印刷会社が依頼された内容に沿って作成した紙面のデザインや文章 、 画像などの確認を初めて行う校正
色校:印刷を行う前に 、事前にデータの不具合や色の調子を確認するための校正
再校:初校に対して、修正やレイアウト変更の指示しを出したものが意図した通りに反映されているか確認・校正すること
念校:印刷で校了(校正が終わること)の直前に、もう一度念のため行う校正
ー校正の過程がこんなにあるのですね!
地方在住での作家活動は? ~地方でも大丈夫!~
ーオンライン化が進み、地方在住でも作家活動がしやすくなったと思いますが、何か不便に感じることはありますか。地方でも十分作家活動ができますか。
地方でも十分作家活動はできます。以前は編集者が長崎まで来て、細かい説明が必要な企画などは依頼をしてくれていました。
今は打ち合わせをzoomなどのオンラインで行うことが大半で、多くは電話やメール(一番多い)でのやりとりです。ラフや校正も以前は郵送されていましたが、画像データをメール添付などで見ることが多くなりました。でも、人間同士のお仕事なので、時には対面でお話したいと思う時もあります。
コロナ前は、年に2回ほど東京に行き、出版社まわりをしていました。今は軌道に乗っているので、特に地理的に不利な事はありませんが、新人の時などは、やはり出版社に近い関東の作家をうらやましく思うことはありました。
新井さんの作品『いたいのいたいのとんでゆけ』(野村たかあき絵 鈴木出版)『きょうはとくべつなひ』(いりやまさとし絵 教育画劇)『だいすきのしるし』(岡田千晶絵 岩崎書店)
作品磨きがプロへの第一歩 ~俳句や短歌、詩で学ぶ~
ー絵本作家になりたい!と憧れている方が多いと思いますが、どうすればなることができますか。
私の場合、編集者と作家の集まるイベントに積極的に参加して、名刺交換をした編集者に「ながさきノート」という通信を定期的に送り、関係を築きました。関係ができてから作品を見てもらうようになりました。コロナ禍でイベントは減っています。
ー作品をコンクールに応募し、入賞することが必要なのでしょうか。
コンクール入賞は、絶対必要という事ではありませんが、コンクール出身の絵本作家は多いと思います。以前は、出版社に簡単に持ち込みもできましたが、今は受け付けていない出版社が多い(絵本作家になりたい人が多くて、ものすごい数の作品が送られてくる。)ようです。
ー出版社に勤められていましたが、出版社での勤務経験があると有利ですか。
私は、たまたま出版社にいたので児童書界に人脈があり、有利な点はありました。しかし多くの作家の方は、そうではないので、作品がよければ関係ない事かなとも思います。いろいろな道はあると思いますが、まずは、作品を磨く事がプロへの第一歩だと思います。
ー絵本は、文が短いため、豊かな表現力や語彙力が必要ですよね。どのようにそれらの力を磨くといいですか。
そうなんですよね。まず、絵本は子どもが読者であることが多いので、理解できる語彙が少ないです。限られた語彙で物語を綴らなくてはならないので難しいですね。
私は、絵本の言葉を活字ではなく「音・声」(大人が子どもに読んであげるもの)だと捉えていますので、ひたすら声に出して読んでみます。リズムを大切にして、なめらかに読めるか確かめています。編集者と電話でお互いに読み合いをする事もありますよ。
あと散文(※1)を書くというより、韻文(※2)、詩を書くようなイメージで書いています。絵本の文を磨くには、俳句や短歌、詩なども普段から読んだり書いたりする事も役に立つと思います。
(※1)散文:小説、随筆、評論などに用いられる通常の文章
(※2)韻文:詩、和歌、俳句など、韻律や字数に制限がある文章
~新井さんの作品は、様々な言語にも翻訳されています!~
左写真:『だいすきのしるし』(岡田千晶 絵 岩崎書店) 左から 中国語 韓国語 フランス語
右写真:『はなさくもりのケーキやさん』(黒井健 絵 フレーベル館) 左から 韓国語 中国語
大切にしていること~子どもの目線と根っこにある心の動き~
ーお話を書くうえで、大切にしていることは何ですか。
子どもの視点を持つ、という事です。
ー子どもの視点を意識して実践していることや日ごろから心掛けしていることはありますか。
一つは、大人の視点を排除すること。これは、デビュー前に創作の勉強をしている時に、先輩作家に言われた事です。「あなたの作品は、母親の視点が強すぎる。子どもを守るべきかわいい存在だと思っている。子どもの登場人物をもっと主体的に動かさないと。」それからは、あくまでも子どもが主役で、自分の意思を持って動く存在として、物語で描く事を心掛けています。
もう一つは、実際の子どもを観察する事です。例えば、参観日にお家の人が来るのを待っている様子とか。母親の姿を探すのに、右から振り返って教室の後ろを見て、すぐさま左から振り返ってもう一度見たり。「ああ、子どもってこんな時こんなしぐさをするんだな」「こんなしぐさの時、子どもの気持ちはどうなんだろう」など行動の根っこにある心の動きを想像します。
もう一つ付け加えるなら、子どもが、何をおもしろがるかを知る事だと思います。今人気のある絵本などを見て、何がおもしろいのかを考える事です。
インタビューを終えて~絵本の優しい世界へ~
いかがでしたか。新井さんの綴った言葉を感じて、画家の方が、言葉の持つあいまいなイメージを絵として描く”作家の世界×画家の世界=絵本”という新井さんの言葉が印象的でしたね。本になるまでに数年かかり、私たちの手に届くまでたくさんの方々が関わり、いくつもの過程を経て作り上げられる。絵本の背景にいらっしゃる方々の思いを大切にしたいですね。
これから読書の季節が訪れます。親子で楽しむのも、もちろんですが、絵本から遠ざかってしまっている方々もこの秋、絵本を開いてみませんか。よみがえる遠く懐かしい記憶が、穏やかで温かな気持ちへと導いてくれることでしょう。秋の夜長、絵本の優しい世界にみなさんも包まれてみてはいかがでしょうか。
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