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【ウエストのおんな~赤とんぼと秋の黄昏刻~第8話】<虫のお話>

『馬肥ゆる、住子も肥ゆる秋の空』

サラリと川柳を詠んでみたくなる今日この頃。

私はアラフィフパート主婦の海近住子(うみちかすみこ)、西彼在住である。

 

早速だが

虫の話をしてもいいだろうか?

 

私は小さな頃から『虫』は友達で、バッタが飛ぼうがカマキリがカマを向けようが

 

「ていっ!」と後方の死角から狙って捕まえてはリリース、のとても紳士的なお遊びをやっていた。

小学生低学年。

十分に人間として覚醒していた頃なので、ちゃんとルールはわきまえている。

 

が! しかし!

 

人間として覚醒していても、いくらルールをわきまえていても

 

そんな心を惑わせる 魅惑のイケナイ『虫』が世の中にはいるのだ。

 

その心惑わす魅惑の『虫』はきっと幼少期の子どもなら誰でもとり憑かれるものだと思う。

 

なぜなら私も幼き日、その『虫』にのめり込んだ一人なのだから。

 

そのコロコロと転がるかわいいフォルム。

危険を感じさせない安心感。

わりとすぐ手に入りやすいお手軽感。

ポケットの中に納まるサイズ感。

そして子ども達の心をわし掴みする1番の理由は、つつけば丸まるその反応の面白さ!

 

もうおわかりだろう・・・。

 

ダンゴ虫! タッタラ~♪

子ども達は『ダンゴ虫』が大好きである。

子どもだった頃の私も『ダンゴ虫』だけは別格の存在であった。

かわいくてかわいくてたまらない『ダンゴ虫』であった。

 

その辺の石をひっくり返しては、あちらこちらにチリチリ逃げ惑う『ダンゴ虫』を一つ一つつまみながら、用意してきたお菓子の箱にせっせと回収する。

『ダンゴ虫回収BOX』が無い場合は、とりあえずポケットのなかへ『イン』するのだ。

 

逃げるスピードが低学年の子どもでも十分追いつける速さなので、次から次へ回収。

 

しかしひとしきり回収し終えると、なぜだろう

あんなに愛おしくてたまらなかった『ダンゴ虫』に興味がなくなる。

 

お別れは突然に。

途端に気持ちが冷めた子ども達は、『ダンゴ虫回収BOX』もズボンのポケットも中身はすっかり放置プレイ。

 

 

時に子どもは残酷である。

 

すっかり行き場所をなくした『ダンゴ虫回収BOX』は無造作に玄関隅へと追いやられ、「あらこれ何かしら?」と翌日何気に気付いたお母さんがパカっとふたを開けると

 

「げえゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

と、いうことになる。

もちろんポケットに『イン』していた『ダンゴ虫達』も洗濯前に見つかったならまだセーフ。

 

もし家族の洗濯物と一緒にグールグル洗濯機で回していたら・・・

想像しただけでうぐぐぐぐぐ。

おかげ様で我が家の子ども達はポケットの中にダンゴ虫を入れることはなかったので、最悪の事態だけはかろうじて免れた。

 

しかし一つ白状するとしたら、現在立派に母親面している私だが

子どもの頃、箱いっぱい愛しの『ダンゴ虫』を集めたことがあり、大事にふたをして家に持ち帰ったことがあった。

案の定集めるだけ集めてすっかり飽きてしまった、愛しのダンゴ虫が大量に入った『ダンゴ虫回収BOX』は自宅の庭先に完全放置。

 

時に子どもは気まぐれである。

 

昨日すっかり飽きてしまい、放置プレイしたくせに翌日にはもう会いたくてたまらない。

 

実に気まぐれである。

 

会いたくてたまらない気持ちを抑えながら 昨日自ら放置した『ダンゴ虫回収BOX』をパカとっと開くと

 

「げえゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

箱の中にはおびただしい数の『ダンゴ虫』がうごめき、

地獄絵図のように我先にと折り重なりながら脱出を試みている。

 

『ダンゴ虫回収BOX』の中にたっぷりタプタプの『ダンゴ虫』を見てしまった私は、小さいながらに『ダンゴ虫』は大量にコレクションするものではないと、学習したのだ。

 

いくらかわいくて仕方がない『ダンゴ虫』も尋常じゃないレベルで量を集めたら、そりゃかなりグロい絵ずらになる。

 

小学校低学年の小さなハートにはかなりの負担。

 

私はそれから『ダンゴ虫』が嫌いである。

『ダンゴ虫』サイドにしてみれば

 

「は?」

 

と言いたいに違いない。

ごめんね『ダンゴ虫』、あれから私変わってしまったわ。

 

なんだか元カレとの別れを思い出したような感覚。

 

今日はウエストでちょっとお酒でも買って帰るわ。

少し飲みながら『ダンゴ虫』のこと 思い出してみよう。

・・・・・・。

「げえゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

次回は第九話「ゲジゲジのお話」

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