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時代の変わり目に出会った1冊の本
1冊の本を頂いた。
『21世紀の子供たちへのメッセージ』
崎戸町で幼年期を過ごした劇作家・野田秀樹氏の帯が付いている。
それは1999年に崎戸で発行された 「21メッセージ実行委員会」による1冊の本。
崎戸の住民でなくとも平成から令和へと変わり行くこの年に、
大きな節目を超えただろう年度に発行されたこの本との出会いに興味を抱く。
その本は、20世紀が終ろうとしている1999年。
21世紀の子供たちに何を残すべきか。
育ってきた時代を通して、次代の子供たちに伝える価値あるものを選択し、残すため出版された。
当時の学童期の子を持つ親と、教師が集まり、
形あるものとして残すために、企画されたものでした。
そこに書かれているのは、
●自分が親から受けた一番心に残る教え
●体験的に得た自分の生き方や信念・思い
●子供たちにこれだけは伝え、教えておきたい一言
●人の道を説く一言
郷土愛に溢れるこの本。
この本の企画編集を引受け、「21メッセージ実行委員会」 会長をされていた、
松本弥代吉氏を訪ねて話を伺ってきました。
松本弥代吉氏を訪ねて
松本さんは崎戸本郷で島宿「OPEN HOUSE 桜櫻」を営んでいるオーナーです。
福岡でデザイナー、プランナーとして活躍していた松本さんは、
生まれ育った島で子供を育て、 親 ・友と話を交わし 心を温め、
海や星を見ながらのそんな生活を望み、
帰郷して、1988年、島宿「櫻桜」をオープンさせました。
故郷の崎戸町には大きな繁栄の歴史がありました。
第1の波はクジラ捕鯨基地としての賑わい。
第2の波は三菱炭坑が、豊かな繁栄の時代を作り、日本でも有数の賑わいを見せます。
現在還暦を迎える年代の方の小学生時代。
崎戸は日本でも人口密度の一番高い町でも有ったのです。
そして・・・・・重要な産業であった炭鉱閉山後の衰退。
今、崎戸は繁栄の時代を経て、もはや高齢者の割合が増え続く集落のひとつに挙げられるまでの衰退を余儀なくされています。
松本さんは、そんな崎戸で、
21世紀に向けてまちづくりの風:第3の波:WAVEをおこすべく、地域活性化グループ「ぶからあたい」を結成。
1998年.11月
そんな仲間達と、炭住跡地で野芝居『鯨神』を企画、実行して上演を果たした立役者でもあったのです。
豊かに潤っていた町では、潮が良い日には村人たちが浜に集まり、
にわか芝居を楽しむ風習がありました。
写真は松本弥代吉さんより
繁栄と衰退の道のりの中、70数年ぶりの復興上演。
再演は当時を思い起こす人にも、初めて見る人にも感動を与えた事でしょう。
もちろん関わりを持ってその時間を創り出し共有した人にも。
生まれ育った土地の衰退を危惧する気持ちは、
遠くに住んでいても、実際に住んでいても変わらないはずです。
でも現実に空き家が増え、回覧板の回送先がひとつひとつ減っていくのを見るのは、やはり住んでいるからこその実感が有り、その重みは増すのだと思います。
そんな中で、松本さんが関わり編集した本や、野芝居は、打開策のひとつとして提案されたものだったのだと思います。
実際、仕事をしながらの編纂作業は大変な労力であったであろうと思うのです。
そんな労力のもとに、1冊の本が出来、演劇は再演されました。
年月が経ち、忘れ去る事項が重なり合って消えていっても、
思いを込めてた気持ち、共有した思い、関わった人々の心の記憶は消えないだろうと思います。
島宿「OPEN HOUSE 桜櫻」
この島で生まれ地域に関わりながらも、
オープン当初から島宿の店主としても島を愛する姿勢は変わりません。
その時期の、獲れたての魚介類を使ったもてなし料理。その海を知り、穫れる魚も、海藻も、生態系も、全て知り尽くした松本さん。
素材を活かした料理方法を知っているのは当たり前なのかもしれません。
そんな島宿には、いまや各地から何ヶ月も前からの予約が入ります。
崎戸町に訪れ滞在する人は、
のんびりと釣りを楽しみ、新鮮な魚介類に舌鼓をうち、
波と鳥の鳴き声以外は聞こえない音のない静かな空間に癒やされます。
店舗もないこの島では滞在する時間のすべてを、ただ目の前の景色や時間に委ねてゆったりと過ごす事が出来るのです。
料理は、毎日、目の前の海で獲れた魚や貝を提供していて、
ときには自ら潜って獲ったウニや貝類を食卓に並べる松本さん。
リピート客が後を絶たないのは、この新鮮な魚介類の魅力と、
家族でのもてなし、くつろげる空間のせいに違いないと思う。
そんな島宿を案内して頂いた。
リビングは高い吹抜けの囲炉裏があり、食事だけではなくお酒を飲んでくつろいだり、珈琲やお茶を楽しんだり出来る空間が用意されていました。
2階に設けられたミニギャラリーには、
崎戸で拾い集めたシーグラスで作られたアクセサリーなどが、
海の見える小窓の前にセンス良く展示されていて、これもまたくつろげる空間でした。
地元の作家さんたちの作品も展示されていました。
最近では各民宿などと協力して修学旅行生の受け入れもされてるそうです。
修学旅行生の受け入れは食事の提供と寝る場所の提供だけではありません。
浜で拾ったシーグラスや流木を使って作る写真スタンドの製作を楽しむ。
同時にビーチクリーンなどの取り組みを知ってもらい、クラフトの楽しさを味わってもらう。
そんな時間を設けて、修学旅行生の受け入れをされているそうなんです。
素敵なフォトスタンドが出来上がっていました。
崎戸には、地元の人は珍しくないと思っているほど、浜に行けば化石も見つけることが出来たりする。磯遊びだけではなく身近な発見も楽しいのではないかと思います。
都会に育ち、海のない地方から来た子どもたちにとって、
実体験のこんな感動は直接心に深く刻まれるのではないでしょうか。
こういった体験型の修学旅行は、観光だけに特化した今までの修学旅行に変わるものになってくると思います。
宿でくつろぎ、海で癒やされ、食事で堪能できる。
島宿「OPEN HOUSE 桜櫻」の魅力は単に宿泊する施設ではなく、
生まれ育った崎戸をこよなく愛する店主の魅力が加わったものだと思いました。
島宿「OPEN HOUSE 桜櫻」
〒857-3102
西海市崎戸町本郷953
TEL 0959-35-3422