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『ありえない成果』を出すチームのつくりかた 大崎高校野球部 清水央彦監督

“大崎高校 野球部”

3年前にその名前を聞いた者のうち、一体どれだけの人がいまの活躍をイメージできたであろう。

長崎県西海市の西のはずれにあるどこにでもありそうな島のグラウンドに、緊張感のある力強い練習声が響き渡る。

清峰高校などの名門校を指導してきた清水央彦監督の姿がそこにあった。

2017年秋、清水監督が大崎高校に来たときの部員はわずかに5人。

いわゆる”廃部寸前”の野球部である。

そこから就任後わずか2年足らずで、九州地区高等学校野球長崎大会で、甲子園常連の創成館高校を破って優勝。

今回ばりぐっど編集部では、この短期間のあいだにチームを作り上げた清水監督に、組織についてインタビューを行った。

廃部寸前の大崎高校に来たわけ

 清水監督が、大崎高校に来ると決めた、決め手はなんですか。

 前の佐世保実業高校時代に色々なことがあり、高校野球界を離れている時期でした。ですが前々から西海市の人たちから”いつかこのまちでも監督をやってください”という声をいただいていました。長崎県で指導しているなら、キャリアの最後はゼロからやってみたいという気持ちがあったので、西海市へお世話になることを決めました。

 地元の期待も大きかったと思いますが、就任当初の周りの反応みたいなものは?

 もちろん期待はしていただいていたと思いますが、(甲子園レベルまでは)さすがに無理だろうと思われていたとは思います。「ゆっくりやってくれればいいから」という応援もいただきましたが、たぶん心の中では無理だと思っているんだろうなぁとは感じていました。

 清水監督ご自身はどのように感じられていましたか。

 私のなかでは、きちんとステップを踏めば結果は必ず出せると思っていました。大崎高校は練習環境が素晴らしいからです。ここには、野球に集中できる環境があります。

 具体的にはどのような点でしょう。

 大崎高校という環境は、親からなかば強制的に離れて、暮らさなければなりません。親から離れた環境というのは、人を育てる上でとても大切なことだと思っています。街や都会の高校だとなかなかそうはいかないですから。

チームの心が変わった鎮西学院との試合

 周囲が無理だろうなという就任当初と比べ、いまでは西海市全体が大崎高校野球部へ大きな希望を持っています。このような空気の変化を起こすにはどういうことが必要と感じますか?

 やっぱり『勝つこと』だと思います。実は夏の大会で惨めな負け方をしました。鎮西学院に負けた試合です。(大崎高校は今年7月15日 鎮西学院に 12 –  3でコールド負けを喫した)

 その試合でどのように感じられたのですか。

 自分たちが積み上げてきたものが、、というより積み上げてきたと思っていたにも関わらず、惨めな負け方をしてしまいました。そこから全てが変わりました。

 ”徹底すること”が本来の私の指導スタイルです。でも鎮西学院に負けるまでは心のどこかで、「無理させちゃいけない」という部分があったのだと思います。私も選手たちも心のどこかで甘えがあったと気づきました。

 試合の終わった夜、キャプテンと副キャプテンを呼び、『もっと厳しくしても大丈夫か』と聞きました。『大丈夫です』と答えてくれたので、 そこから私も選手たちも覚悟ができたのだと思います。

リーダーの役割は「勝たせること」

 そこから九州地区高等学校野球長崎大会優勝というまさに結果が生まれたわけですが、清水監督ご自身、リーダーの役割はなんだと考えられていますか?

 私はリーダーは結果で評価されるべきものと考えています。ですから指導者の役割は『勝たせること』。頑張らせておいて、勝たせないのは、指導者の責任だと思います。生徒も時間を使ってるし、お金も使ってるし、当然努力もさせます。だからこそ、それだけ努力をさせたのであれば、『勝たせる』のは指導者の責任だと考えています。

 清水監督はチームに、明確な目標のようなものを示されるのですか?

 私はスローガンのようなものは嫌いです。ですが、私が伝えていることがあるとすれば”出し切る”ことを伝えています。物事は最初は難しいものです。ですが、続けていれば必ず成果がでます。1日1日をしっかりと”出し切る”ことで、成果がついてくると思っています。

 野球はプロ野球選手にならない限り、そのまま社会で役に立つものではありません。ですが、野球を通じて、生徒には『努力の仕方』を伝えているつもりです。それは毎年卒業していく生徒にも伝えていることです。

 チームについて、また別の質問です。”リーダーが目指しているもの”を、”チームの一人一人が心から信じている状態”にするには、どのようなことが大事と思われますか?

 それも「成果を出させること」だと思います。

 すぐに大きな成果は出ません。ですが、例えば日々の練習で、打者であれば1つでも多くヒットを打つ、投手であれば1kmでも速い球を投げる。

 こうして、指導者として選手に結果を出させていけば、チームの一人一人が、これを続けることで結果が出るんだ、ということにつながり、メンバー一人一人が信じている状態のチームになると思います。

ありえない成果を出すチームのリーダーの役割

 現在チームの主将は坂口選手ですが、組織において主将に求められることは何だと思いますか?

 どんなことがあっても監督と心を一つにすることです。強い組織のためには、必ず必要な要素です。

 ではエースについても聞かせてください。現在大崎高校野球部のエースは田中投手です。どんな組織でもここぞという時に頼れるエースの存在は重要だと思いますが、エースはどのように育ちますか。

 私は、”力”がつけば”気持ち”はあとからついてくると思っています。純粋に力をつけて、結果を出すことに集中すること。そうすれば”気持ち”の面でも(エースと呼ばれる)人間は育つのではないかと思います。

 まずは力をつけること、そこに集中すること。気持ちはあとからついてきます。”この子は性格が弱い”・”あの子は心が弱い”という意見などが時々ありますが、それは違うと私は思います。純粋に力をつけることに集中することで、人や心は育つと思います。

 ありえない成果を目指すチームにおいてリーダーがやるべきことは。

 成果を出すことです。そしてたとえ嫌われても徹底すること。何もない状態から結果を出そうするのですから、徹底しないといけません。今あるもので頑張るだけでは結果は生まれません。それこそ人間を何回も変身させるくらいの気持ちで、頑張って頑張って頑張りすぎなくらい頑張る。その先に、きっと成果がついてくるのだと考えています。

(聞き手:宮里賢史)

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