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【ウエストのおんな<夏の青い水平線>第2話】~『暑い』のせいで~

毎日毎日朝、起きるのが憂鬱。長い1日が始まると思うとこのまま夢の中でフワフワしていたいと切に願ったりなんかする。要するに『暑い』のだ!脳みそは溶け出し、近頃は思考能力ほぼほぼゼロで生きている。そんな私は海近住子(うみちかすみこ)西彼のアラフィフパート主婦である。

 

怒るでしかし!

(イメージ画像です)

 

私の中の『横山やすし(愛称やっさん)』が暴れ出す。

 

そう。『やっさん』が暴れ出す程の暑さなのである。(私の中のイメージ的に)

 

それまで膝を揃えて行儀よく座っていた『やっさん』が、途端に眼鏡を人差し指でクイクイッと上げながら、もう片手をポケットに突っ込んだままガニ股で私の脳内を蹴散らしながら歩き回るのだ。

 

そうなるとエアコンをつけて、西川きよし師匠が現れるのを待つしかない。(私の中のイメージ的に)

 

涼しい風の向こうからきよし師匠がやって来る。

 

「キミなぁ、大概にしぃや」ときよし師匠が優しく『やっさん』をなだめてくれて、やっと私は平常心に戻れるのである。

 

しかし職場にはエアコンはない。ビニールハウスの中だから。

 

だから『やっさん』が大暴れしてもきよし師匠は現れないのである。

 

去年も「暑い」と呪文のように唱えていたが、今年はこれまたレベルが違う。

 

なぜって、『やっさん』の出現率が異常に高いもん。

(イメージ画です)

 

職場がもろにその影響を受けるので、いつもはお上品なワタクシのお口も文句しか出てこない。

 

いくら好きな仕事とはいえ、灼熱のビニールハウスの中でガンガン暑さを味わうと、エアコンの冷え冷えした室内でのお仕事に異常なくらいの憧れを抱いてしまったり、ついついたねたんでしまったりする。

 

一緒に働くお姉さま達も、「あぁラード(汗のこと)が出る~」とか「このままじゃブタの丸焼けになる~」とか「蒸しブタが出来る~」とかとか自虐に走って何とか自分を保とうとしているが、そんな冗談が出るのも午前中だけ。

 

午後からは、みなさん途端に口数が少なくなり、暑さに気を回さないように黙々と作業に没頭する。

 

『やっさん』も度が過ぎた暑さになると逆に大人しくなるのである。

(イメージ画です)

 

仕事の合間の15分休憩とお昼休みだけがエアコンの効いた休憩室で冷え冷えきよし師匠の恩恵を受けられる。その冷え冷えタイムを目指してみんな仕事を頑張るのだ。

 

そして待ちに待った休憩時間。しかし天国を味わう時間は短い。

 

あっと言う間の15分、すっかりお尻から根が出たワタクシ達はなかなか立ち上がることが出来ない。というか立ち上がらない。というか立ち上がろうという気が無い。(笑)

 

ずっと根を生やしておく訳にもいかないので、きよし師匠に後ろ髪を引かれながらエアコンの冷え冷えルームから一人、また一人と意を決してドアの外へと出て行くのだ。

 

その姿を後ろから見ていると、さながら厳しい戦場の最前線へ挑む兵士のようにりりしく、そして力強くたくましく見えるのである。

 

実際のところは、暑さで身も心もカスカスに干からびてるけどね。

 

思えば今の職場にパート勤務が決まり、お姉さま達の中に思い切ってダイブして4年と3ヶ月。

 

当時、お姉さま達からは「こんな子が夏の厳しさに耐えられるのかしらね」と言われていたらしい。

 

私だって、夏のビニールハウスなんて未知の世界だし、もしかしたら「もうだめです」ってリタイヤも視野に入れていた。

 

ところがどっこい

 

やだ!私ってば結構やればできる子だった!

 

汗をかけない体質もハウスの中でのサウナ効果で、穴という毛穴が全面開通し

 

人生で初めて『汗が流れる』を体験したのだ。

 

そして私はアラフォーからアラフィフへと華麗に年齢を重ね、肝も据わり、腰もすわり、順調に重量も増えて

 

立派な『The おばちゃん』に仕上がった。

 

360度どこから見ても間違いなく生粋の『おばちゃん』である。

 

『おばちゃん』はこの暑さでカスカスに干からびているのでどこまで体力を使わずに『おばちゃん』特有の図々しさでやり過ごすかが仕事帰りのウエストにも反映される。

 

はい 答えはもちろん惣菜コーナー。

 

割引き惣菜を素早くゲットし調理時間を自分の体力回復タイムに充てるのだ。

食卓にはメインとして惣菜が並び、男子チームが手抜きだと言いたいところ、それを並べたのは干からびた『おばちゃん』とくれば「干からびてるから仕方ないな」と思わせるところもテクニックである。

 

それに何と言っても私のバックには『やっさん』がついているし、『干からびたおばちゃんとやっさん』の最強タッグには誰も勝ち目はないということをみんなちゃんと理解しているのだ。

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