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【ウエストのおんな(第2話)】~西彼在住アラフィフ主婦とその日常/ウエストの天使~

 ウエストの天使

私は海近住子(うみちかすみこ)。西海アラフィフパート主婦である。

今日も仕事が終わっての帰り道、いつもの場所でウインカーが右へあがる。

♪いっつ おーとまーちーっく♪

宇多田ヒカルの歌のように私は自動的にウエストへ行くようになっているらしい。

そこは西海主婦のパラダイス『スーパーウエスト』。

私がこの西海市西彼町に嫁いできて早22年。その当時から変わらず、ずっと西海主婦達の台所として存在するウエスト。

世間ではすっかり珍しくなったサービスが今も健在で、私がウエストを好きな理由の一つでもある。

それは店員さんが買ったものをレジを通しながら袋に詰めてくれるというもので、今の時代よそのスーパーでは見かけることがとんと無くなった最高のサービスである。

 

それは17年前のよく晴れた日だった。

まだヒナドリ達が小さい頃、彼らを連れてウエストに夕飯の買い物へ。

店の中へ入るやいなや大好きなお菓子を買ってもらえる喜びなのか、大人が集うショッピングエリアへ行けるという興奮なのか、彼らのテンションは入店から最高潮。

店内を縦横無尽に走り回り、雄たけびをあげる彼らを誰が止めることができるだろううか?

とにかく大人しくさせるため、「お店の中は走っちゃダメよ。おりこうさんにしようね」と”口では優しく、形相はなまはげ”でどうにかしのいでみる。

しかしながら彼らもかなりのツワモノでせっかくのショッピングを本能のおもむくまま、心ゆくまで楽しもうと必死なのだ。

「悪い子はいね~が~?」が効かない。

 

「負けだ・・・。」

 

今日も5歳児と3歳児に負けてしまった・・・。

「母親なんて無力なものさ」とつくづく痛感する。

夕飯の買い物もしたのかしてないのかわからないが、それよりも何よりもこれはもうとにかくこの場からの脱出を試みる。

右手に5歳児左手に3歳児・・・。うんツライ。

その間にも隙あらばチリチリパラパラ脱走を試みる彼らをなだめながら、とにかくゴールを目指す。

そして幾度の難関や高い壁を乗り越え、その先にやっとゴール(レジ)が見えた。

 

「いらっしゃいませ~」「ピッ」「ピッ」

ゴール(レジ)で店員さんが手際よくレジ袋の中へ次々と商品を入れてくれる。

ヒナドリたちを追いかけまわし、疲れ果ててボロボロになったなまはげの前に神々しく現れたそれはまさしく

 

『天使・・・。』

 

これがもし他のスーパーで、買ったものを自分でレジ袋に入れなければならないとすれば、私は5歳児と3歳児をチリチリパラパラにしたまま、泣きながらレジ袋の中へぐっだぐだに商品を詰め込む羽目になる。

 

恐ろしい・・・。

 

でもここはスーパーウエスト。

小さな『テンションマックスモンスター』を2人も連れた私には、本当にありがたいサービスである。

 

私は買った商品を天使に託し、会計が終わるまで待てばよいのだ。

天使はにっこりと微笑みながら、そして確実にピッタリとレジ袋に商品を納めていく。

きっと天使の頭の中では、瞬時にひとつひとつの商品の表面積の計算がされ、どの大きさのレジ袋が最適なのかを判断し、どの位置にどの商品をどのように入れていけばバランス良く入れる事ができるか、一瞬で天文学的計算をしてしまうのだろう。

 

ウエストの天使 最強。

 

若かりし日の私が、本当にありがたいと心から思ったこのサービス。

普段当たり前だと思っているから気付かないだけで、でもきっとあの時の私のように「いつも助かってます」と思ってる人がたくさんいると思う。

 

だからこれからもずっとずーっと続けていってほしい。

 

あらやだ、今日の私すごく真面目。

 

そんな私を今日もスーパーウエストは優しく受け入れてくれる。

次回「ウエストのおんな第3話」はこちらから

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