穏やかな湾を見守る「いざり神」。
今年も「いざり神」に椿の花が咲く。
早朝、地元の老婆が坂を登ってくる。
ゆっくりと、ゆっくりと、粛々と毎日繰り返される光景だ。
地元で祀られている「いざり神」。かつて、戦いで両足を負傷した平家の落人がいざってこの丘を登り、息絶えた場所であるという。
「いざる」とは、膝頭や尻を引きずりながら上半身の力で前に進む様だ。差別的表現として今は使われることのなくなった言葉だが、その表現は私達に生々しくその様を想像させる。
そして「神」になった。
重い甲冑を纏い、最後の力を振り絞って坂をよじ登る血まみれの武将。
当時のこの地域の人々なりに感ずるところがあったのでしょう。おそらく丁寧に埋葬され、そして祀られたのです。
白い沙羅双樹(夏つばき)の代わりに赤い花をつける椿の大木が、まるでご神木のように碑の背後を守っています。
赤い色は血の色でしょうか。盛者であった頃の華やかな女性達の紅の色のようにも感じられます。
「盛者必衰の理」。いつの世の流れの中にも、ひとりの人の生き様の中にも・・・。
「四本堂公園」へ続く道を少し外れた丘の上。地元の生活に溶け込み、今も脈々と祀られている歴史の一端を感じに、ふらりと、どうぞ…。
<アクセス>
西海市西彼町白崎郷。「四本堂公園」へ向かう途中、右手前に食事処「うずしお」さん、左前に黄色いミラーがある地点より右上へ丘を少し上ったところ。大きな椿の樹が目印。