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【ウエストのおんな~SUMMER~第7話】<父と娘のか・ん・け・い>

 

海近住子(うみちかすみこ)47歳!

西彼に住む『更の年期』がチラチラ顔を出すお年頃のアラフィフパート主婦である。

 

今年も西海市のあちらこちらで『夏まつり』が賑やかに行われた。

海近家もその昔、よく夏祭りの花火を見に行ったなぁと懐かしく思い出す。

でもね、この年になると「 家でゴロゴロ~ゴロゴロ~ ごろ寝ばしときたか~」

 

と、なる。

 

まだ子どもが小さい頃は、打ち上げ花火を見る目的で毎年西彼の夏まつりに家族で出掛けていたが、子どもも大きくなってくるとだんだん親とは別行動になり、しまいには

 

親はすっかりタクシー要員としての役割しかない。

 

男子チームの長男、次男はもちろん親をタクシー代わりに使うが、まだ可愛いさがある。

迎えに来てもらって申し訳ないという「詫び」の心を感じることができたからだ。

 

しかし!しかしである! 女子チームである『娘』!末っ子にして一人娘!

大人を手のひらで転がす能力を幼いころから持つ恐るべ人物である。

彼女の屈託ない笑顔に何人の大人たちが転がされたことか。彼女のキラースマイルは最強である。

そしてその素晴らしい能力を一番に発揮されるのが母。

 

「もしもしお母さ~ん? 消防倉庫んとこにおるけんさ~ 今から迎えに来てくれ~ん?」

 

カッチーーーーーン なん?その言い方!ばりムカつく!

 

お前さんは親をタクシーと勘違いされておりませんか?ですよね?

 

しかし!交通手段が時間的に自家用車のみになってしまう土地柄、お迎えに行くのは必然的だということをわかっているところがまた計算高くていやらしい。

 

西彼時間で待ち合わせ場所にのらりくらりやって来て、「ごめ〜ん ありがとう〜」と、心にこれっぽっちも思っていないであろう感謝の言葉を掛けられ、母は踊らされるのである。

心にこれっぽっちも思ってないであろう感謝の言葉でも「ありがとう」と言われると、それまでイリイリとしていた気持ちが強制的に落ち着いてしまう。

ちくしょ~う! うまいね~!!

しかし、実は私よりももっと踊らされているヤツがいる。

 

そう、旦那である。

 

これが旦那のパターンになると

「どこて?消防倉庫んとこ?今から?おう!わかった!ちゃんとそけおれよ」

嬉しそうにブンブン『しっぽ』を振って段取りをする。

待たされても文句を言いながら、でも正直な『しっぽ』は意に反してブンブンと振り切る勢い。

 

右に左にゴロンゴロン転がされている旦那は、よもや自分が娘から踊らされているなんて夢にも思っていないのだな、これが。

 

しあわせな男よ。

「そがんと分かっとっさ〜!分かっとる上でしてやりよっとたいえ!」と、しあわせな男はきっと言うのだ。

 

その部分も含めて、転がされているのだよ。

 

夏まつりの送迎に限ったことではない。日々の生活の中でバレリーナのようにクルクルと踊られている旦那を見ると、なんとも可愛らしいものである。

 

娘から好かれようとする涙ぐましい父の努力を当の娘は分かってくれているのか。

もちろん彼女の中ではそんな父の思いもコミコミで計算は成されている。一枚も二枚も娘がうわて。

カヤの外で様子を見ている私はニヤけが止まらない。

娘を持った世の父たちは同じようなものではなかろうか。きっとその様子を横目に妻たちは旦那にエールを送るのだ。

 

ニヤけながら。

 

あぁ、私も手のひらで男どもを転がす能力が欲しいものだ。

しかしながら生まれ持っての才能というものは、少々の努力やなんかでは、そう簡単に自分のものにはならないものなのだ。

 

近々、私は娘に弟子入りする予定である。

 

「しもしも~ お父さん? 帰りにさ~ウエストでキャンパスノート買うてきてくれ~ん?」

大事かことはノートにメモれって、『師匠』が言うっちゃ~ん。

 

NO WEST NO LIFE !

今日も海近家は平和である。

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